野中 勇志 院長（椿クリニック)のインタビュー

地元だからこその開業

大学卒業後は救急災害医学講座に籍を置きました。初期研修をしていく中で、現段階の自分の技量がまだまだ拙いことを痛感しました。そこで医師としての力を養う意味もあり、最初に救命救急センターのドアを叩いたのです。当然のことながら救命救急の現場では手術もおこないます。その過程において、さらなる専門技術を身に付けたいと消化器外科に身を置き、以降、それを専門としてきました。
その救命救急センターに勤務していた時の恩師がクリニックを開設され、私も非常勤という形で訪問診療に携わることになりました。フィールドが違うものですから、当初は勝手がわからないことが多く戸惑ったのですが、徐々にその世界に魅了されていきました。在宅診療では、限られた医療資源の中で適切な判断が求められます。フィールドは違えど、一定の制限がある中での医療行為が求められるという点で救命救急の世界と通じるものを感じ、いつしか在宅診療こそ私の居場所と感じるようになっていきました。
『椿クリニック』は2020年4月に開院いたしました。私は生まれも育ちもここ高津区です。自らのクリニックを構える上で、地元であるからこその大きなやりがいを感じています。

癌の末期の方のケアに力を注いでいきたい

患者さんは認知症に加え、やはり癌の末期の方が多いように思います。消化器外科を専門とし、癌の患者さんの治療を主に担当してきたという流れがそこにはあるのでしょう。
在宅診療では、おおよそ緩和ケアという形で医療がおこなわれます。手術だけが治療ではないということですね。あらゆる手段を講じ、その方が思う形を叶えてあげることが私の仕事になります。

患者さんファーストをモットーに

患者さんが第一で、ご本人がどうされたいのか、ということを最優先にしてプランを組み立てていくことになります。必ずしも、すべての方が積極的な治療を望まれるというわけではありません。ご本人、ご家族の希望を踏まえながら、お家でできる範囲の治療を提案していくことになります。
患者さんの思いを実現するために動くことが原則となりますが、思いはそうであっても、現実的にそれがベターな選択肢とは言えない、ということもあります。例えば、いかなる場合にあっても救命措置を望まれるご家族もおられますが、それが苦痛を伴うだけのものであると予想されるなら、医療の専門家としての助言をさせていただくことがあります。これは、救命救急の現場で数多くの方を診てきた私の経験が活かせるところかもしれません。その方向が、本当にご本人ならびにご家族にとって良いものなのかを常に念頭に入れながら、最善の道を選んでいただけるよう微力を尽くしてまいります。

多職種連携を進め、かゆいところに手が届くサポートを

採血や心電図、またポータブルの機器を用い、レントゲン撮影やエコー検査をおこなえる体制を整えています。在宅でレントゲンを導入されているところはまだまだ少ないかもしれません。レントゲンがあれば、肺炎等の判断がその場でできることになり、それは患者さんの安心につながると考えています。

今後については、ケアマネジャーさんや訪問看護の方など、他職種の方々と連携をさらに密にし、顔の見える関係を積極的に作っていきたいと考えています。医療、看護、介護。それぞれで専門性が異なります。誰が上といったことではなく、みなさんと一致協力することで、適切なサポートがおこなえると考えています。

これから受診される患者さんへ

「椿」は、川崎市の市民の木です。その花言葉は、「控えめな優しさ」。私たちはあくまで患者さんとご家族をサポートする立場にあります。その意味において、ふさわしい名称をつけることができたと考えています。
高津区をはじめ、川崎市がより住みやすい街となるよう、医療の面から貢献してまいります。些細に思えるようなこと、ちょっとした疑問でも結構ですので、どうぞ気軽にお声掛けください。

※上記記事は2020年8月に取材したものです。
時間の経過による変化があることをご了承ください。